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襖のWEB辞典

この『襖のWEB辞典』は、東京内装材料協同組合が、平成2年12月に創立70周年記念事業として企画・発行した『襖考』の記事の一部を、WEB用に編集したものです。

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何時の時代から襖紙に絵模様が施されたか定かではありませんが、少なくとも平安時代には、さまざまな絵模様が襖や屏風を彩っていました。このことは「源氏物語絵 巻」など当時の多くの絵巻の画中画から推察されます。おそらくは大和絵の山水図や月次絵(つきなみえ)などに金銀砂子細工が蒔き散らされ、木版による雲母押し模様が鳥の子に押されていたことでしょう。伝統的な加飾技法はこの時代にその源をみることができます。また、これらの技法は単に襖だけでなく、「平家納経」に代表される装飾経などに華やかに用いられています。
和紙の歴史も古く、正倉院の染め紙は天平時代のものと思われます。雁皮紙、三椏紙や麻紙などが残されていますし、これらの和紙が平安時代の襖紙としても用いられていたことでしょう。襖紙のさまざまな表現は、まさに平安文化が生みだしたものといえます。
襖紙に色や模様を施すにはさまざまな技法がありますが、大別すると抄紙技法によるものと、和紙の上に加飾するものとに分けられます。
抄紙技法による分類・・製紙過程での加工技法
抄紙技法による模様付けは、抄紙工程の途中で施されるもので、一般に漉き模様と呼ばれるものです。この技法は紙を漉き上げる工程の中で、紙表の風合いに変化をつけたり、絵模様を漉き込みしたり、紙料以外の植物を漉き合わせたりします。この大半の技法は明治時代から考案されたもので、さまざまな工夫がされてきました。これらの技法は単独でも用いられますが、併用することによって漉き模様ならではの、より繊細な表現ができます。模様に使われる色も伝統的な漉き染めの色が多く用いられ、多彩な模様がつくられています。ここでは、手漉きに関わる技法を中心に解説していますが、同様の表現を機械漉きでつくっているものもあります。

(1) 打雲【うちぐも】・飛雲【とぴぐも】
打雲は、紙の天地に雲がたなびいたように藍や紫の繊維を漉きかけたものです。これは、平安時代から続いている技法で、漉き模様の技法の中でも、もっとも古典的かつ伝統的なものです。藍や紫に染めた雁皮紙を再び叩解して紙料にもどし、簀の上で無地の湿紙(漉槽から漉き上げた水を含んだ状態の紙)に雲形に漉きかけます。
飛雲は、同様の技法で空を飛ぶ雲を表したものです。現在では、この技法を発展させ、雲だけでなく草花・山水などさまざまな模様が漉かれています。

(2) 雲竜紙【うんりゅうし】
打雲の技法と流し漉きの特徴を巧みに利用したもので、紙面全体に雲の模様をつくりだします。着色した繊維や手ちぎりの長い繊維などを用い、ネリの調合具合や簀桁の操作など、主として抄造の際の工夫で、地紙の上に雲形の模様をつくります。簀の上の水の流れと繊維の流れの変化が雲の動きを決めます。この雲竜紙は漉き模様紙の中でももっとも種類が豊富で普及しています。大典紙、大礼紙、雲芸紙、雲華紙などがあります。

(3) 水玉紙【みずたまし】・落水紙【らくすいし】・水流紙【すいりゆうし】
簀桁の上の湿紙に水をかけて模様をつくりだします。水が落ちた部分の表面の繊維がはじかれて、柔らかな表現の模様ができます。
水玉紙は、江戸中期に考案されたもので、簀桁の湿紙に藁箒(わらぼうき)で水滴を散らします。上掛け紙に穴があき、地紙を露出させて水玉模様をつくります。上掛け紙の色の中に地紙の色が浮きでてきます。
落水紙は、湿紙の上に市松などの型を置き、水滴を落として模様をつくりだします。
水滴をかける時間の長さで模様の強さを合わせます。
水流紙は、湿紙にジョウロや連続して穴を開けたパイプなどで水を流しながら動かし、縞状の模様をつくります。模様によって、孔雀、すだれ、観世水などと名付けられています。

(4)塵入り紙【ちりいりし】
本釆は、紙料の繊維をつくる工程でそぎ落とした楮の表皮(黒皮)などの粗悪な紙料で漉いた紙を指し、鼻紙、袋紙、襖の下貼り紙などの質の悪い紙として用いられました。しかし、その素朴な味が好まれ、出版物の表装やたとう紙として使われるようになり、黒皮だけでなくさまざまなものが漉き込まれるようになりました。今では、雁皮や三椏の黒皮、マニラ麻、樹皮、そば殻、藺草、川苔などを漉き込みます。

(5)漉き合わせ紙【すきあわせし】
塵入り紙と違い、当初から装飾性を求めてつくられた紙で、2枚の紙の間にさまざまなものを漉き合わせる技法です。簀の上の湿紙に、紅葉、笹、羊歯、蝶などを置き、別の簀桁で漉いた薄紙を伏せ重ねて1枚の紙に漉き合わせます。

(6)金銀粉【きんぎんふん】、雲母粉混入紙【うんもふんこんにゅうし】
三椏の繊維とよくからみ合わせた金銀粉や雲母粉と通常の紙料といっしょに漉いた紙です。金銀色や雲母の色が繊維の隙間に見え隠れして、上品な表現ができます。

(7)流し込み模様紙【ながしこみもようし】
湿紙の上に模様の形の木や金属性の型枠(フレーム)を置き、その中へ染色された紙料を流し込み、模様をつくります。あらかじめ染色された紙料を用いるため、柔らかさの中にコクのある表現ができます。

(8)引っ掛け紙【ひっかけし】
俗に「ヒッカケ」と呼ばれ、水槽の中に浮遊している三椏や楮の繊維を薄い金属板のへりに引っ掛けて持ち上げ、別に漉いておいた湿紙にこれを付着させる技法です。地紙とは違う光沢と繊維の流れが模様を柔らかく浮き立たせます。襖紙では大変よく用いられる技法で、機械生産でも行われてます。

(9)透き入れ紙【すきいれし】
簀の上に紗の型紙を張って漉き、紙面に凹凸を与えて模様をつくります。紙幣の透かし模様は、この技法の一種です。

(10)その他
このほか、檀紙、布目紙、置き模様紙、大正水玉紙など、さまざまな種類の技法があります。
加飾技法による分類
ここでは抄紙技法とちがい、漉き上げた和紙の上に、後から絵模様をつくるために施される加飾の技法を分類しています。これらの技法は伝統的に古くから用いられたものと、近年になって使われているものとに分けられます。

★伝統的な技法
古くから用いられた技法で、熟達した職人による手作業で一枚ごとに製作され、おのずと変化がつき厳密には同じものはできません。むしろこれこそが、手づくりの面白さといえます。

《A:金、銀箔などの技法》
金箔・銀箔・プラチナ箔・銅箔などを用いて加飾する伝統的な技法で、襖に限らずさまざまな器物などに施されています。

(1)金銀砂子細工【きんぎんすなございく】
金銀砂子細工は、金銀の箔を上質の竹筒に網を貼ったものに入れ、蒔き散らしながら模様をつくり上げます。蒔絵が金粉を用いるのと違い、砂子細工は金箔を用います。金箔の種類、大きさや形の変化で、より多彩な表現ができます。裁られた箔は大きさや形により、大石、小石、砂子、微塵、野毛、ちぎれなどと呼ばれます。この枝法は、平安時代の絵巻物や料紙などに代表される日本独自の金箔の加飾技法です。わが国の美術史に残る数多くの日本画家の作品や、各地の歴史的建造物の襖などにも用いられています。襖を彩るものとしては、最も華麗な技法です。

(2)箔押し【はくおし】
金箔や銀箔などを貼り付ける技法で、和紙、絹織物や器物などの表面に膠で貼り付けます。箔はあらかじめ箔紙に仮に貼られ(箔あかし)、箔紙とともに和紙などに押してから紙だけを取り除きます。金屏風のように紙面全体に箔押しするものを「平押し」といい、最後の一枚を押し終わるまで、気をゆるめられません。型紙などを用いて膠や漆などを摺り、その上に箔押しして家紋などの模様を押すこともあります。繊細さと根気の必要な技法です。

(3)截金【きりがね】
厚めの箔を細長く截り、貼り付けて模様をつくります。箔押しが箔一枚のまま貼り付けるのと違い、必要な大きさに截り、直線や曲線状に貼り付けます。この技法は主として仏像や仏画に用いられますが、襖にも砂子細工の表現によく使われます

《B:木版による技法》
模様を彫った版木に顔料あるいは染料をのせ、手やバレンでこすって和紙に模様を写し取る技法と、木版を和紙の下に敷き紙表から模様を磨き出す技法とがあります。版木には桜、桂、いちょう、朴の木などが用いられます。ことに桜は堅く耐久性に優れているため昔からよく使われています。

(4)雲母押し【きらおし】
金銀砂子細工と同様に伝統的に受け継がれてきた技法です。雲母押しは、雲母を混ぜた絵の具に糊料をたっぷり入れ、粗目の木綿張りの篩に刷毛で移します。木綿に含まれた雲母を、模様を彫った版木にのせます。その上に和紙を置き、手のひらで紙背をやさしくこすって写し取り、ふっくらとした柔らかさを出します。このようにすると雲母は紙面によくのり、絵の具だまりは部屋にさし込む光線によって微妙に光をかえ、唐紙特有の味わいを持つようになります。

(5)漆押し【うるしおし】
手法は雲母押しと同様ですが、漆は浸透性が強いため、写し取る和紙はあらかじめ礬水(どうさ)を強めに施しておきます。漆の液は絽の生地を張った篩を通して竹べらで版木にのせ、紙に写しとります。経年とともに生漆の光沢が和紙の風合いになじみ、落ちついた表現になります。 そのほか、淡い摺り墨でバレンを用いて摺る「月影押し」や、和紙に写した雲母や漆が乾く前に箔押しをしたり砂子を蒔いたり、版木の上で雲母に色挿ししてにじませたりします。

(6)磨き出し【みがきだし】
鳥の子などの薄めの和紙の表にあらかじめ銀泥や銀砂子を施し、紙背に模様を彫刻した木版を置いて、紙の表を猪の牙などで研ぎ、模様を浮き出たせる技法です。木版の代わりに網代なども用います。銀の独特の柔らかなグラデーションで模様が表現できるのが特長で、金銀砂子細工の料紙や襖に用いられています。研ぎ出しや蝋箋とも呼ばれます。

《C:型紙による技法》
型紙に用いる紙は、生漉きの楮紙に柿渋を繰り返し浸み込ませ、強度と耐水性を与えます。この渋紙に模様を写し、さまざまな技法で彫り、型紙をつくります。これを渋型と呼びます。彫り上がった渋型に漆で紗を張ること(紗張り)もあります。これらの型紙を伊勢型ともいい、型染めには欠かせないものです。

(7)置き上げ【おきあげ】
和紙の上に渋型を置いて、型紙の上から雲母や胡粉を竹べらで摺り込みます。型紙の厚さによって、厚みのあるシャープな模様が施され、立体感のある模様が摺り上がります。

(8)更紗【さらさ】
置き上げと同様に渋型を用いますが、絵の具をボタン刷毛で摺り込むため、多彩で柔らかな表現ができます。主に唐草などの伝統的な模様(更紗模様)などに使われます。
置き上げが和紙に摺るのと異なり、織物に施されます。

《D:刷毛引きによる技法》
さまざまな刷毛を用いて金銀泥や顔料を引き染めします。刷毛を押しつけたり、揺すったり、引いたりして独特な風合いを表現します。刷毛は、用途によって櫛状に間引いたり、使い古しの擦り切れた刷毛(上がりっ刷毛)を使ったりして特徴をだします。単純に見える技法ですが、霞などは職人の練度によって柔らかさの表現が決まります。また、刷毛の引き跡(刷毛目)が手引きの味を特徴づけます。

  (9)泥引き【でいびき】
和紙に、金泥・銀泥を刷毛を用いて引き染めします。紙面全体を刷毛引きするものと、泥霞をつくるものとがあり、金・銀箔のメタリックな表現と違って、穏やかな落ちついた金・銀色が表現できます。非常に高価なものです。雲母を引いたものは「雲母引き」と呼ばれます。

(10)丁子引き【ちょうじびき】
櫛状に間引いた刷毛や上がりっ刷毛を用い、不規則な丁子模様(縞模様)を引き染めします。絵の具の含ませ方で色のにじみに変化をつけた縞模様をつくります。

(11)むしろ引き【むしろびき】
むしろや縄の上に、多少湿り気を与えた紙をのせ、その上から絵の具を含んだ刷毛で引きます。むしろの凹凸を利用した柔らかな味のある縞模様や格子模様をつくります。

(12)ぼかし染め【ぼかしぞめ】
あらかじめ水を含ませた1尺~1尺2寸の刷毛に、筆で絵の具を浸み込ませて引き染めします。1丁の刷毛で柔らかなグラデーションをつくりだします。

《E:揉みによる技法》
和紙を繰り返し四方から揉み、紙をのばして揉み皺を模様とします。繰り返し揉むために紙は強い手漉きの楮紙などを使います。

(13)雲母揉み【きらもみ】
雲母引きした紙を揉みます。揉皺の部分の雲母が剥落して下地が表れ、揉みの味が引き立ちます。あらかじめ絵の具で地引きをしておくと、その色が剥落した揉皺に見え隠れし、雲母の色と調和した変化がつけられます。

(14)水揉み【みずもみ】
染料を含ませた濡れた和紙を揉みます。濡れたままで揉むので水揉みと呼ばれます。和紙はまず礬水などを引き、弱い耐水性をもたせます。つぎに淡い色の染料を刷毛染めし、濡れたままで揉みます。揉み皺の礬水が剥げて染料が強く浸み込み、揉みの風合いを際立たせます。濡らした状態で揉むため、紙は必ず強い楮漉きのものを使います。

★近年の加工法
さまざまな道具や機械を用いて、ある程度の量産を前提にした加エ方法です。単独の技法で作ることは少なく、伝統的な技法などと組み合わせて模様をつくります。

(1)ピース加工【ぴ一すかこう】
エアースプレー(エアーブラシ)を用いた方法で、ぼかしの柔らかな表現が特長です。手作業のため、機械ではできないコクのある色出しや色のかけ合わせができます。襖紙の裾の全面にぼかしをかけたり、型紙などを用いて模様の一部を彩色したりします。ことに金銀色のぼかしは独壇場です。

(2)スクリーン印刷【すくり一んいんさつ】
捺染印刷ともいいます。枠にスクリーン(紗)を張ったものに模様を焼きつけ、スキージを用いて、型紙の染め付けと同じように模様を摺り込みます。型紙と違い、濃淡は網点による濃度の変化により、山水や草花の模様を表 現します。コクのある変化が持ち味です。 (3)オフセット印刷【おふせっといんさつ】 平板印刷の一種で、通常のオフセット印刷と同じですが、紙だけでなく織物にも印刷するため、特別な改良が施されています。微細で精徹な表現を特長とし、色分解による3原色かけ合わせもできます。量産性も高く多方面 の用途に用いられます。

(4)輪転印刷【りんてんいんさつ】
襖紙を生産するための特殊な輪転印刷機をつかいます。巻き取りの紙や織物に高速で印刷し、主に公団住宅や賃貸住宅などに使われる襖紙を作ります。廉価で均質、施工性の良さなどの特徴があります。
模様の配置
襖の模様は、古来より大和絵などの肉筆画で彩られていたものと、唐紙に代表される木版摺りのものに分けられます。肉筆による絵模様は山水風景や月次絵(つきなみえ)などが自由奔放に描かれ、木版によるものは唐朝の文様や有職文様が用いられていたと思われます。このような様々な模様が、時代の流れとともに淘汰され、今日の襖に引き継がれてきました。模様の配置には、手作りの特注品から量産される規格品まで、多くの種類がありますが、よく用いられるものを大別すると次の五つのパターンに分けられます。

「総模様」「腰模様」「腰帯模様」「引手帯模様」「袖模様」


上記の模様の配置は代表的なものですが、これ以外にも様々な配置があります。ことに特注製作の襖紙や、施工の際に紙の貼り分けによる工夫などでオリジナルなものを作ることができます。1枚で単独の配置や、2枚・4枚につながる配置などで個性のあるものができます。特殊な配置でデザインする際は、事前に製作依頼先や施工業者と相談されることが肝要です。