トップページ > 内装材料コンテンツ > 京都 襖を巡る旅 - 妙心寺 退蔵院方丈襖絵プロジェクト 視察 青蓮院門跡 華頂殿襖絵 視察

京都 襖を巡る旅

Part1 妙心寺 退蔵院方丈襖絵プロジェクト


京都 襖を巡る旅 - 妙心寺 退蔵院方丈襖絵プロジェクト 視察 青蓮院門跡 華頂殿襖絵 視察

text &photographs: 細井 絵理子(c//space)
2014年6月16日と17日に(社)日本襖振興会と国際インテリアデザイン協会(IIDA)日本支部との合同企画「退蔵院 襖紙プロジェクト」視察を含む京都ツアーが開催されました。素晴らしい新しい時代の襖絵が伝統と歴史ある建物に納められている様子をお届けいたします。


若き副住職と絵師の挑戦。

 2011年の春にスタートした妙心寺退蔵院と京都造形芸術大学の共同プロジェクト「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」。村林由貴さんという若き絵師がお寺に住み込み禅の修行を行いながら、今後何百年先までも残る新たな襖絵を仕上げていくというプロジェクトです。国内外から強い関心が持たれ、各メディアでも取り上げられているのでご存知の方もいらっしゃるでしょう。今回、(社)日本襖振興会IIDA Japan Chapter(国際インテリアデザイン協会日本支部)の共同企画で特別にこのプロジェクトの進行状況を視察させて頂くことが出来ました。

 京都市右京区にある妙心寺の塔頭、退蔵院の方丈(本堂)は約600年前に建立された重要文化財です。現在、その方丈には約400年前の安土桃山時代の絵師、狩野了慶が描いた障壁画(襖絵)が残されています。この古い襖絵を保護する目的と共に今だから出来る新しい最高の芸術を残すことこそが重要と考えた退蔵院の副住職である松山大耕氏によってこのプロジェクトはスタートしました。

 日本はもとより世界の素晴らしい絵画や彫刻、音楽などの芸術は、時の権力者(貴族や寺院等)がアーティストのパトロンとなり手厚いバックアップを受けながら花開き、その作品は現在まで受け継がれてきました。江戸時代も同じです。多くの絵師が大名や寺社の保護を受け、驚くような大作や数々の名作を生み出し、現在私たちはそれらを目にすることが出来るのです。では、今の日本はどうでしょうか。そのような試みをしているところをこの退蔵院を除いて私は知りません。今の時代だからこそ生み出せる新たな襖絵の誕生を江戸時代の手法に習って日本のひとつの寺院が試そうとしているのです。

 松山副住職によると、ニューヨークで友人とこのプロジェクトについて話した際、その友人の言葉からヒントを得、無名の若い絵師にチャンスを与えることにしたそうです。既に著名な絵師に新たな襖絵を依頼するのではなく、京都にゆかりのある無名の若い絵師を選ぶところから始め、絵師は寺に住み、仏教と絵の修行を重ねながら最終的に本堂の襖絵を描き上げることになったのです。



描く毎に進化を遂げる生命力溢れる絵の世界。

 「若く才能がある人、京都にゆかりのある人、やりきる度胸がある人、宗教や文化を尊重できる人」これらを応募条件として公募された絵師。3年間にわたるお寺での住み込みや仏教修行、全国行脚等、現代の若者にとってはなかなかハードルの高いこの条件を受け、応募した中から選ばれたのは京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業、同大学大学院芸術研究科終了の神戸出身の村林由貴さんでした。「絶対に描きます」と強く言い切るその度胸と思い切った線が決め手となり彼女が選ばれたそうです。

 通常非公開の退蔵院の書院で特別に昼食を頂いた後、本堂にて松山副住職からプロジェクトの経緯についてお話を聞き、いよいよ絵師に会いにいきます。現在、同じ妙心寺内にある壽聖院をアトリエとし作画を続けている村林さん。柔らかな笑顔が印象的な若い女性です。彼女が持つほんわかとした印象からはどんな絵が生まれるのだろうか?と期待が高まります。まず退蔵院の襖絵の前に取り組んでいたという、完成したばかりの壽聖院の本堂の雀の襖絵を見せて頂きました。数羽の雀が生き生きと稲穂をついばみながら空を舞う姿が軽やかに、そして繊細に描かれています。雀の表情が写実的でありながら何とも愛らしく、観ていると幸せな気持ちになれる、そんな絵です。そしてアトリエとして使っている和室の襖絵も拝見させて頂きました。ここにある絵は本堂よりも更に前に描かれたもので、大胆な筆致と密度に思わず声が出ます。本堂の絵とは異なり、襖の端から端まで一杯に描き込まれた襖絵はまるで目の前に迫ってくるような迫力です。古いものから順に春、夏、秋、冬の画題で描かれ、繊細で緻密なタッチから力強さと強弱を使い分ける自信に満ちたタッチへと変化する様子が一目で分かる圧巻の空間でした。大学では水墨画等を描いた経験がほとんどなく、漫画等を描いていたという村林さん。墨や筆の使い方も学びながらの作業だったそうです。しかしここに描かれる絵には生命力が宿り、墨の濃淡だけで描かれているのにも関わらず、色や匂いまでも感じてしまうようなエネルギーに溢れた空間に仕上がっていました。最後に視察メンバーのリクエストに応えて、襖に描く前の習作も見せて頂きました。長い巻物の和紙に延々と描かれる何百羽もの雀。本番の雀よりずっと猛々しく野生の力が感じられます。これだけの数を描くことにより下絵を描かずとも筆を動かすことが出来るようになるのだと納得です。そして息抜きも必要と色付きで描かれたユニークなカエルたち。長い修行とも言えるこの生活の中で彼女がどうこのプロジェクトに向き合い、前に進んできたかが垣間見られる時でした。

 村林さんには最高の墨や和紙、筆を用いる機会が与えられています。多くの習作を重ね、またその道具の作り手を訪ねて話を聞き、禅の修行を行うなどして得た経験をどのようにアウトプットするのか大変楽しみです。この後取り組む退蔵院の方丈の襖絵にどんな世界描かれるのか、わくわくしながら待ちたいと思います。