日本には伝統的な和紙を今も作り続ける地域が数多くあります。
その中でも、襖紙やインテリア素材として多用される和紙として知られる『越前和紙』についてご紹介します。
越前和紙の中心産地は、福井県越前市の今立地区に位置する「五箇(ごか)」と呼ばれる地域とその近郊です。「五箇地区」とは大滝町、岩本町、不老町、新在家町、定友町の五つの集落からなり、岡本川の流域に紙漉き工房や和紙関連施設が集まっています。
今回のコラムでは複数回に分けて『越前和紙』の里の魅力をお届けします。
日本画や襖紙でも使用される大判手漉き和紙
越前市の「五箇地区」と呼ばれるエリアには今も多くの製紙所がある。その規模や形態はさまざまで、得意とする紙の種類も製紙所によって異なる。
今回ご紹介する岩野平三郎製紙所は、多くの職人が役割分担しながら伝統的な技法で大判の手漉き和紙を製作する製紙所で、手漉き工房としてその規模はこの産地で最大とも言われる。
日本古来の原料(楮、三椏、雁皮、麻)を使用し、流し漉きという技法で大判の和紙を製作している。
特徴
主な製品に日本画用紙、壁画用大判紙がある。
また、約2×2.7mの漉槽。雲肌麻紙は最大212×273cm。
継承伝統に雲肌麻紙、打雲・飛雲・水玉などがある。後三者は福井県指定無形文化財の技術として紹介される。
作家の注文が紙を進化させた
初代・岩野平三郎(1878年生)は13歳頃から紙漉きを始め、日本画家や研究者と交流して画紙を開発した。雲肌麻紙は、麻紙の復元・改良という課題に対し、楮と麻を配合して、強度、絵具の受け、重ね塗りへの耐性を高めた紙。横山大観らに愛用され、「大観紙」とも呼ばれた。
二代目は打雲・飛雲・水玉などの装飾技法を継承し、1925年には初代と早稲田大学図書館壁面用の大判紙を製作。1949年には法隆寺金堂壁画復元模写用紙に携わった。三代目は平山郁夫の薬師寺玄奘三蔵院「大唐西域壁画」、東山魁夷の唐招提寺御影堂障壁画などを支える紙を手がけた。
そして現在の4代目である岩野麻貴子氏は、岩野家一子相伝の「打ち雲紙・飛雲紙・水玉紙」の技法を守りつつ、和紙の新たな可能性を切り拓くために、デジタル作品を手漉き和紙に印刷する”和紙アートプリント”を始め、新たな試みにもチャレンジしている。
その工房は広く暗い
まず驚くのが紙を漉く現場がとても暗いということ。高い天井。高い位置に明かり取りの窓。自然光だけが淡く差し込むその奥に大きな漉舟(すきぶね)がある。
明るい電灯のもとでは紙漉きは行われないのである。
それは紙を漉く際、微妙な凹凸や厚みの誤差、異物混入が無いよう、斜め上から差す自然光のもとで見極めるためである。
また、この繊細な動きと経験を要する作業には女性が適していると言われ、昔より女性がこの作業を担っている。
原料はすべて自然の植物から
1.原料の刈り取り・蒸し
まず、原料の刈り取りと蒸しの作業から始まり、蒸した枝に冷水をかけ、温かいうちに皮を剥ぐ。剥いだ皮を乾燥させたものが「黒皮」。
2.黒皮から白皮をつくる
黒皮の表面には黒い外皮や緑色の部分が残っているため、これらを削り落とす。どこまで外皮を残すかによって、生成りの色や紙の表情が変わる。
3.水浸け・洗浄
原料皮を清水に浸し、砂、泥、脂肪分、澱粉質、タンニンなどを洗い流す。ひとつづつ手作業で冷たい水の中で行う作業は熟練の技と忍耐力を要する。
清らかな水を大量に使える環境が製紙では重要で、この越前地ではそれが可能な水源があったことがわかる。この洗浄が不十分だと後の塵選りの負担が増え、紙に小さな砂や汚れが残る原因になる。
4.煮熟(しゃじゅく)
白皮をアルカリ性の液で煮て、繊維を結びつけているペクチンやリグニンなどを溶かす。
5.灰汁出し・晒し
煮終わった原料を水に入れ、溶け出した不純物とアルカリ分を洗い流す。
6.塵選り(ちりより)
煮た白皮を水中に浮かべ、傷、芽跡、黒皮、細かな塵を指先で取り除く。全て手作業で行う。自然光が柔らかく入る位置に窓を取り、自然光の元、作業する。
7.叩解(こうかい)
きれいになった繊維を叩く叩解(こうかい)作業。繊維を一本一本にほぐす。繊維を粉砕するというより、繊維束を柔らかく解きほぐす工程。
8.ネリをつくる
和紙の伝統的な主原料と共に重要な素材が黄蜀葵(とろろあおい)である。その根から取られた粘性のある液体は「ネリ」と呼ばれ、水と混ぜ、漉舟の中に入れることで、原料である楮などの木の繊維が均一に広がり、美しい和紙が生まれるのだ。
9.紙料の調合
叩解した繊維、水、ネリを漉槽の中で均一に混ぜる。色紙や創作和紙では、ここで顔料、染色繊維、麻、雁皮などを配合する
伝統的技法で紙を漉く
10.紙を漉く
そしていよいよ紙を漉く作業。大きな簀桁(すけた)は決して軽く無いはずだが、それを若い女性2人が呼吸を合わせて手前、奥へと動かし紙が均一なるよう大きく、そして繊細に傾け動かす。
簀桁の中には細い竹ひごなどを糸で編んだ、紙料を受け止める簾状のものが入っており、これを漉簀(すきす)という。
11.紙床へ移す
その上にできた湿紙を、伏せるようにして一枚ずつ紙床の上に重ね、湿紙同士が密着しすぎないよう、一枚ごとに濡らした布を挟む。
12.圧搾
これを圧搾、水分をゆっくり搾り出した後、乾燥させる。
上記動画のリンク
岩野平三郎製紙所 手漉き和紙動画
乾燥の工程は力のある男性が担う
13.乾燥
圧搾した湿紙を一枚ずつ剥がし、干し板に貼って乾かす作業。男性2人組で行う。
干し板には滑らかに削った雌の銀杏板などを用いる。これは板の木目が大きく荒いと紙肌に影響するためで、銀杏の木目は細く目立たず、平滑であることで適していると言われる。
次に刷毛で湿紙を中心から外側へ撫で、空気や皺を追い出しながら板に密着させる。
刷毛には馬毛などの柔らかい毛が使われる。
そして乾燥室である室(むろ)に横長に立て格納し、乾いたものを室から取り出し、手早く板から剥がし完成となる。ここまでの作業を無駄の一切ない連携の取れた動きで、干し板貼りと剥がしを交互に行い、そのスピードは驚くほどである。
14.選別・仕上げ
大型和紙の製作に必要な連携作業
繊細かつ、力も根気もいる作業の連続が手漉き和紙の製作工程だ。
原料を大釜で約2時間煮熟し、叩解。漉槽で叩いた原料とネリを混ぜ、簀桁で漉く。湿紙を重ね、約1日かけて徐々に圧搾し、板に貼って数時間乾燥。検品、裁断、必要に応じて染色なども行う。
大型紙では2人または4人が簀桁を持ち、速度、角度、返しのタイミングを一致させる。
岩野平三郎製紙所では、大判の和紙を手隙きで製作する。それも数多くの枚数を。
よって、1人もしくは少人数で全ての工程を行うのではなく、熟練の職人から若い人まで、大勢の老若男女が作業を分担し、交代で作業にあたる。
その連携プレーは美しい。まるでリレーの選手がバトンを渡すように無駄がなく、洗練されている。
幾人もの人の手で作られる雲肌麻紙は、繊維の絡みが雲のように見える美しい和紙だ。
長く多くの書画の作家に愛される強靱で平滑、そして美しい紙。
これらの紙は、そうやって人の手で一点一点生み出されているのだ。
株式会社岩野平三郎製紙所
越前市大滝町27-4
本コラムではインテリアの内装材にまつわる様々な情報を発信してまいります。国内の新しい製品情報はもとより、エンドユーザーの消費行動に関する変化や海外トレンドから得られるデザインのヒント、話題の建築などにも着目しご紹介してまいります。