今、見直される和の住まいの魅力

ここ数年、インテリア業界では現代生活の中で新たに和の住まいの魅力を再発見しようという試みが行われてきました。記憶に新しいのは昨年7月に開催された「NIPPON DESIGN展」。これは日本襖振興会や襖関連企業の連合体であるFプロジェクト加盟店会など、和の素材や建材に関連する企業が多数協力、協賛し、IIDA Japan Chapter(国際インテリアデザイン協会日本支部)が主催し開催された和のデザイン発信イベントです。テーマは「これまで」と「これから」を結ぶ新しい“NIPPON DESIGN”。日本の美しい素材や技術に新たな視点を加えて、未来の住まいのカタチやデザインの新しい姿を模索する試みでした。

和の住まいの魅力を広めようという試みは、海外のインテリア展示会等に出品する形でも行われてきました。インテリア雑貨や家具など、そのデザインが持つ美しさや高い文化的価値、自然に寄り添った素材使い等を新進気鋭の若手デザイナーや地域振興で奮闘する産地の職人やメーカーが発信してきました。

しかし、こういった動きとは裏腹に、日本国内では新築着工物件における和室の減少を止めることは出来ず、和の住まいの文化と伝統は大変残念ながら失われつつあるのが現状です。

撮影:諸石 信
撮影:諸石 信
撮影:城山 勇治
撮影:城山 勇治

「和の住まい推進関係省庁連絡会議」発足

そのような現状の中、昨年7月に文化庁、農林水産省、林野庁、経済産業省、国土交通省、観光庁により構成される「和の住まい推進関係省庁連絡会議」が発足しました。和の住まいの魅力や大切さを広く伝えようという試みはこれまで各業界団体では個別にみられましたが、このように6つの関連省庁が一体となって情報発信することは初めてになります。この動きがこれからどのように進むのか、国土交通省 住宅局住宅生産課 木造住宅振興室 企画専門官の上森康幹氏にお話を伺いました。

(国土交通省 関連URL:http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000078.html)

撮影:諸石 信

“和の住まいの推進”について

「趣旨としては、日本の地域の気候、風土、文化に根ざした住まいづくりや住まい方を含めた日本の住文化の良さの再発見、普及に向けた“和の住まい”を推進することにあります。

このように“和の住まい”を取り上げ普及しようという動きはこれまであまり見られなかったので、停滞化する和の関連業界にも新たなムーブメントを喚起させる新しい試みと言えると思います。」

上森氏は続けて、「推進するにあたっては、まず手引書のとりまとめ。そして関係省庁が連携して開催する“リレーシンポジウム”が普及活動の柱になっていきます。すでに手引書も完成し、昨年10月30日には住生活月間フォーラム「和の文化に学ぶ」を東京で開催し、これを手始めに全国で順次シンポジウムが開催される予定です。」

『和の住まいのすすめ』 発刊

「和の住まい推進関係省庁連絡会議」発足に伴い、最初に和の住まいの手引書となる『和の住まいのすすめ』が発刊されました。2つの異なる章から構成されるフルカラーの冊子。ひとつは日本の伝統的な住まいに住む“生活シーン”に焦点を当てた記事と和の建材やビジネスで“和の住まいの要素”を語る「識者が語る日本の文化と家」。もうひとつは建築としての和の住まいの特徴を捉え、環境への配慮やコミュニケーションのあり方で魅力的な和の住まいを定義、提案する「今に生きる日本の住まいの知恵」が紹介されています。

“和の住まいのすすめ”2つの表紙

撮影:諸石 信

撮影:城山 勇治

“リレーシンポジウム” で全国に発信

国民向けに普及活動を展開する柱として企画されている“リレーシンポジウム”。この企画によって和の住まいの良さや再発見を促していこうという試みです。

手始めとしてのフォーラムは昨年10月30日に東京にて住生活月間実行委員会主催で開催されました。住生活月間フォーラム「和の文化に学ぶ」〜伝統的な住まい方や暮らしの文化を見つめ直す〜と題されたこの会では、養老孟司氏(東京大学名誉教授)が基調講演を行い、和の住まい方で新しいスタイルを実践、提案するパネリスト梶浦秀樹氏(株式会社庵代表取締役)、セーラ・マリ・カミングス(株式会社桝一市村酒造場取締役)、重川隆廣氏(株式会社重川材木店取締役)によるプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました。

今後は各県にある地域の協議会が主催して同様のシンポジウムを順次開催。地元のメーカーや業界団体、エンドユーザーに向け情報発信や意見交換が行われる予定になっているそうです。

撮影:城山 勇治

“和の魅力再発見”を全国的なムーブメントに

この内装材料案内ホームページではこれまでも“和の魅力再発見”と題して、たびたび和の住まい方や和の素材、デザインの魅力について特集してきました。今回、「和の住まい推進関係省庁連絡会議」が発足し国主導の全国規模の活動がスタートしたことは、和の住まいの魅力を現代の生活の中に積極的に取り入れていこうとするインテリア業界の動きとも合致しています。

今後は和の住まい関連団体やメーカーからの発信と、エンドユーザーにより近い建築家やインテリアデザイナー、ハウジングメーカー等からの発信を連動させ、消費者へのダイレクトな提案に結びつけることが大切になってくるでしょう。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。日本が永きに渡り培ってきた伝統と文化を現代生活の中でも快適な“新しい和の住まい”として構築し、世界へ向けても発信していきましょう。

撮影:岩船 雄一