古きものに見る新しきもの

17世紀に八条宮家(桂宮家)の別荘として造営された京都の桂離宮。その中にある茶屋 松琴亭には、現代でも“モダン”に感じるデザインがあります。それは青と白のコントラストが大胆にして美しい襖と床の間。襖には加賀奉書の白紙と藍染紙が使われており、そのダイナミックとも言える大きな市松模様は見るものの目を奪います。ちなみに加賀奉書とは、奈良時代から紙漉きの歴史を持つ現在の金沢市二俣で作られた和紙のことです。そして、同じく京都にある修学院離宮。17世紀中頃に後水尾上皇の指示で造営された離宮で、その中にある中離宮の客殿の霞棚横の襖にも大胆な市松文様が用いられています。古くからこのような斬新なデザインを日本人は楽しんでいたのです。襖紙のデザインバリエーションは日々増えているのですが、残念ながらそれを一般の人々は知らないというのも事実。また、この桂離宮のように古きものの中にも現代人が新鮮に感じるデザインは沢山あるのです。

桂離宮/松琴亭の襖「加賀奉書の白紙と藍染紙による市松模様」
桂離宮/松琴亭の襖「加賀奉書の白紙と藍染紙による市松模様」
桂離宮/松琴亭の襖と床脇
桂離宮/松琴亭の襖と床脇
修学院離宮/中離宮 客殿の霞棚と市松のパターンが見事な襖
修学院離宮/中離宮 客殿の霞棚と市松のパターンが見事な襖

粋で遊び心のあるデザイン

襖に使われる引手や和室に見られる釘隠など、伝統的な日本の金物には様々なモチーフが使われ、その写実性や遊び心に驚かされる事もしばしば。桂離宮は観月を主要テーマにしていることもあり様々な場所に“月”をモチーフにしたデザインが見られますが、月の字を元にした引手はことに有名ですね。このような部材はその機能は勿論のこと、装飾性においても素晴らしいものばかり。従来の使い方以外にも現代のライフスタイルに合わせた新しい使い方を模索したいものです。例えば小さなサイズの引手を複数扉にはめ込んでデザインポイント(飾り)としたり、釘隠しを家具の装飾として使うのも良いのではないでしょうか。

また、襖紙に使う紙にも多くの種類があり、そのデザインは様々ですが、中には壁紙としてやアートパネルにしたくなるようなデザイン性の高い物も多くあります。

桂離宮/笑意軒の戸襖の引手 矢羽の部分が引手になっている
桂離宮/笑意軒の戸襖の引手 矢羽の部分が引手になっている
桂離宮/月波楼の襖 明かり取りとなる障子が組み込まれた源氏襖
桂離宮/月波楼の襖 明かり取りとなる障子が組み込まれた源氏襖

襖はエコでサスティナブル

紙や木で出来た襖は大変エコな建具と言えます。まずは自然素材を用いた人にやさしいものだということ。次に日本の気候風土に合わせた作りになっているということ。湿度の高い日本の風土に合わせ、調湿効果の高い新旧の和紙を何重にも貼って作られています。そして、今、環境問題を語る上で欠かせないキーワードでもあるサスティナブル(持続可能)な構造になっていること。室内の建具は使えば使う程、傷みや汚れが出てくるもの。襖は張替えが容易に出来るので、模様替えにも適し、同じ部材を再利用しながら長く使うことが可能なのです。