“Cartonnage/カルトナージュ”という人気の手工芸をご存知ですか?
フランスで生まれた厚紙を使った手工芸ですが、今、日本でも彩り豊かな壁紙やファブリックスを使って室内装飾とコーディネーションして楽しむ人が増えてきています。
空間に彩りを与え、かつ実用的な収納としても活躍するカルトナージュの魅力について、カルトナージュ愛好家の岡本有子さんにお話を伺いご紹介します。
カルトナージュとは
“Cartonnage/カルトナージュ”。フランス伝統の厚紙工芸。この言葉の由来は厚紙を意味するカルトン(Carton)から来ており、18世紀頃、南フランスで蚕を入れる紙箱に装飾を施したことが発祥と言われています。箱の表面と内側に色柄のついた紙やマーブル紙などの洋紙、もしくは布を貼って装飾を施し、インテリア雑貨として使用します。蓋つきの小箱やフォトフレームなどの他、日本では茶箱を布で装飾した収納兼スツールも人気です。日本でも愛好家は多く、カルトナージュ教室や関連書籍も多数出ています。
カルトナージュの魅力
今から15年ほど前、プロが主に訪れるカーテン等を取り扱うインテリア・ファブリックスのショールームに、違う目的で布を探しに来る人が目に留まるようになりました。聞けば“カルトナージュ”の教室に通う生徒さんやその先生だとか。フランスなどヨーロッパの伝統的で華やかな柄の生地とタッセルなどを組み合わせ、装飾を施したエレガントな雑貨類。私の目には眩しいくらいの優美さと繊細さがあり、セレブな奥様方に人気の手工芸と聞き納得したのを覚えています。
それから7、8年後には私自身も知人のレクチャーを受け、茶箱に布を巻きつけたカルトナージュ製作を初体験。今でもその収納兼スツールは私のオフィスで活躍しています。実際に作ってみてわかったのは、ボンドやタッカーを使って貼り付けるので、思っていたよりは手間がかからず仕上がることと、布や紙の組み合わせ次第で様々なテイストを表現でき、個性を発揮できる点でした。また、古い箱や地味な厚紙を素敵に生まれ変わらせることができるのもカルトナージュの魅力と言えるでしょう。多くの人がこの魅力にハマったのも納得です。
そのカルトナージュの魅力に惹きつけられ、わずか2年半の間に数多くの作品を作るようになったカルトナージュ愛好家の岡本有子さんにカルトナージュを始めるきっかけとその作品についてお話を伺いました。
欲しいサイズで作れる美しい収納
2015年春に岡本さんは都内の住宅街に新築の家を建てられました。その家で細かな日用品や雑貨を収納、整理するための箱が必要になり、美しく、かつぴったりサイズで収めるためにはオリジナルで作る必要があると考えたそうです。そこで以前より興味のあったカルトナージュを始めることに。最初は本を見て作ろうかとも考えたそうですが、すぐに自分に合った先生を探し始め、いくつかの教室の体験レッスンを経たのち、自由ヶ丘のアトリエ Le Bonheurの小柳由佳先生と出会い、入門。初級、中級、上級コースへと進み、わずか2年半でオリジナルの作品を作れるほどの腕前に。自分は不器用な方だと思っていたという岡本さん。けれど特別に手先が器用ではなくても、美しい色合いの箱が出来上がる過程を体験し、自らの手で作ることに大きな喜びを感じたそうです。カルトナージュは細かな仕上げをする必要がある箇所もあるけれど、「まぁ、いいか」と気軽に作業できる部分があるのも良いところだそうです。
素材選びとインテリア空間とのコーディネーション
カルトナージュと一言で言っても、その種類やテイストは多様です。フランス式、イタリア式(マーブル紙やワックスペーパーを使用)など様式の違いの他、先生によって扱うファブリックスなど仕上げ材のテイストにも差があり、出来上がりの雰囲気は実に様々。岡本さんは自分の好みに合ったテイストの作品を教えてくれる先生を見つけるまでにかなりの時間を割かれていました。
そして、作品作りで大切なポイントが素材選びと色柄の選定です。どの様な部屋に置くのか。家具やカーテンとのバランス。岡本さんはそこまで考えて素材選びにこだわっています。実際に岡本邸のリビングにはウィリアム・モリスのカーテンやジム・トンプソンのローマンシェードが掛かっています。そこで使われている深いボルドーカラーやベージュなどに合った色柄で作品の多くが制作されていました。また、単に同系色でまとめるのではなく、違う色相も組み合わせ、メリハリのある美しい組み合わせにしているところも大事なポイントでしょう。
壁紙もカルトナージュではよく使う素材です。岡本邸の寝室でもそれは大活躍しています。ベッドヘッド側に貼った輸入クロスの残りを使って、ベッドサイドテーブルを手作りされています。ベースは古いスリッパ用の収納家具。壁と同じ壁紙を使って引き出しを制作し、棚板に設置。壁面デザインとぴったり合って空間にマッチしています。
オリジナルデザインでより楽しく
岡本さんは現在、自身のためだけではなく、お孫さんや友人のために様々な作品を作っています。また、インテリア雑貨にとどまらず、カルトナージュの技法を活用してオリジナルのバッグ制作にも夢中です。そしてこれからは、その人にあったオーダーメイドの作品を手がけていきたいとおっしゃっていました。実際にご親戚の方に頼まれ作られたジュエリーボックスやお孫さんの為に作ったドールハウス(BOX)は、細かな点まで工夫され、大変クオリティの高いものです。その人のためを思って岡本さんが丹精込めて作られた作品だということがよくわかります。
手工芸の魅力は、忙しい仕事や家事の合間でも夢中になって没頭できる時間が持てること、そして仕上がった時の達成感。そして使う人、もらった人の笑顔を見た時の喜びでしょう。カルトナージュはインテリアの内装材を使用して、空間に彩りをプラスできる魅力的な手工芸です。部屋のアクセントにこの秋、手作りにトライしてみませんか?
本コラムではインテリアの内装材にまつわる様々な情報を発信してまいります。国内の新しい製品情報はもとより、エンドユーザーの消費行動に関する変化や海外トレンドから得られるデザインのヒント、話題の建築などにも着目しご紹介してまいります。