襖紙の加飾技術の多様性と美しさを皆さんはご存知ですか?ここ数年、襖紙や壁紙を扱う企業が襖紙の伝統の中で培われてきた美しく表情豊かな和紙(または和紙風素材)を壁紙やアートパネル、インテリア雑貨として生まれ変わらせ発表しています。デジタルプリントの台頭でどんな色柄も表現出来るようになってきた今の時代だからこそ、職人の手技や風合いが魅力の和紙風素材が改めて注目されているのです。今回はそんな日本の和紙や襖紙の新しい世界をお伝えします。
照明器具から壁紙まで。進化する襖紙から生まれた和紙の新しいカタチ
襖紙にこんなにバリエーションがあったとは!
今から約20年前、昔ながらの松林や山水画が描かれた襖紙しか知らなかった私は、色も文様も加飾技術も驚くほど多様で、美しく粋なデザインの襖紙がある事を知りました。和室の減少とともにそんな豊かな襖紙が見られなくなっていく中、その美しい素材を違う形でも活かそうとする試みが始まっています。
照明器具や雑貨、家具の表面に貼られた加飾和紙。箔を散りばめた和紙をパネルや箱に加工したアートのような一品。そして原紙の長さや強度、非伸縮性能を追求して生まれた新作和紙壁紙。そのバリエーションは日々進化し、インテリア空間を新しい和紙と技法で彩ることが出来るようになっているのです。
伝統的な技法と色柄を活かし、壁紙へと進化させた装飾壁紙
濃色の顔料を使用し、刷毛引きや櫛引きなど繊細でありながら迫力ある色柄を越前和紙に施して加飾技術の技と美しさを詰め込んだ「耀」。その発表から約2年後。2016年に登場した株式会社太陽のインテリア和紙カタログ「燦 SAN」では、伝統的な和紙のような風合いとしなやかさを持ち、それでいながら伸び縮みしにくいという特性を持つ日本版“フリース”素材を新開発。和の文様を現代風にアレンジして“襖紙にも使える壁紙”として発売。16色の和の色展開は現在の住宅の床や建具色と合うようにセレクトされたもの。一般の家庭の壁紙としても使いやすい仕上げ材、襖紙から進化した新しい壁紙としてクローズアップされました。
アートのように美しい日本の伝統美を最新技術で表現した壁紙
「"ART JAPANESQUE" Non-woven Wallcoverings」と名付けられた新作壁紙は株式会社菊池襖紙工場が2018年1月、ドイツのフランクフルトで開催された国際見本市「ハイムテキスタイル」で発表したもの。菊池襖紙工場が得意とする伝統的技法「金銀砂子細工」を用い、最新のデジタル印刷技術と合わせて表現した新作壁紙です。またここでもヨーロッパでシェアを増やしている“フリース”素材を採用。施工のし易さ、使いやすさもある製品に。日本の伝統的な文様をモダンにアレンジし、シックな色合いにまとめています。海外の壁紙ブランドが嫉妬するのではと思うほど、日本の文様を熟知し、考えられたデザインバランスは見応えがあります。こちらはまだ一般発売はされていませんが、受注生産は受け付けており製作可能です。
手加工だからできる繊細な美しさで空間を装飾する
作家が描く図柄や職人が持つ伝統技法を活かした装飾和紙。伝統を守りながらも果敢に今の時代に求められる美を追求してきた有限会社湯島アートが展開する加飾和紙のブランド「一吉」。照明器具やインテリア雑貨、アートパネルにと作品の幅を広げ、和紙が持つ魅力と可能性を積極的に示しています。職人の手業で生まれる有機的な曲線や柔らかな直線は櫛引きや刷毛引きなどの技法による加飾技術から生まれます。デジタルプリントが台頭する今だからこそ、あえて手の仕事にこだわる価値がそこにはあります。天然素材に染みる顔料のぼかし。そこに美しく且つ繊細に配された金銀箔。特に「無彩」の本金箔野毛細工膠加飾を施したシリーズは、インテリアデザイナーなら一度は使ってみたいと思わせる洗練と美しさがあります。襖紙としてはもちろんのこと、壁面装飾やアートとしてのポテンシャルも高い製品です。
壁紙メーカーが今取り組む日本の伝統美
株式会社サンゲツが2018年1月に発表した新作壁紙のカタログ「XSELECT」。日本の伝統工芸の技と美意識を取り入れ、品質の高いラグジュアリーコレクションとして発売。「室礼(しつらひ)」と題されたシリーズでは揉みや箔など手加工和紙で伝統美を表現。国内だけではなく、日本の匠の技を世界に向けて発信する見本帳に。伝統的手法でありながら、模様の切り取り方や色の選定で現代の建築や空間に合うよう計算された壁紙です。ホテルなどの商業施設はもちろんのこと、一般住宅でもワンランク上の素材、仕上げを求めるお客様にもお勧めできるシリーズです。
リリカラ株式会社には以前より伊勢型紙をモチーフとしたシリーズ「kioi」があります。これは紀尾井アートギャラリー「江戸の伊勢型紙美術館」と連携し、日本の高い伝統技術と文様の多様さで知られる伊勢型紙の文様を壁紙やガラスフィルム、カーテン生地に施したシリーズです。着物の柄として流行を作り出してきた伊勢型紙。その柄行は粋で大胆なものも多く、壁紙として使用した際には空間に個性と品をもたらします。淡い色合いでは優美に、濃い配色では艶やかに。着物のごとく空間を彩るその様は、住宅でも個性が求められる今の時代だからこその使い方が提案できる素材です。
本コラムではインテリアの内装材にまつわる様々な情報を発信してまいります。国内の新しい製品情報はもとより、エンドユーザーの消費行動に関する変化や海外トレンドから得られるデザインのヒント、話題の建築などにも着目しご紹介してまいります。