2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック。開催に向け様々な業態で日本の伝統や文化を新たに発信する動きが活発化しています。その流れを受け、現在、商業施設や住宅のデザインでも日本の伝統的なデザインや素材を活かした新しいスタイルが注目を集めています。

今回は住宅設計・デザインから“和デザイン”の実例をご紹介します。

実例紹介「和と洋が同居する家」O邸(東京都)

2015年春に竣工したO邸(東京都)は茶人でもあるご主人と奥様の共働き夫婦2人暮らしの新居として計画されました。8畳の広間と6畳の茶室、そして水屋のある1Fには書斎や主寝室などプライベートスペースもあり、階段室によってパブリックスペースと分かれる設計です。そして2Fには開放感あるリビング・ダイニングやジム&サニタリースペース、奥様のアトリエなどがあり、ご夫妻のライフスタイルを充実させるプランです。インテリア・デザインのポイントとしては、1Fには表情豊かな和紙や襖紙を用い、2Fにはヨーロッパ産の壁紙やファブリックを使ってヨーロピアンテイストをプラス。和と洋のデザインが1Fと2Fで同居するデザインになっています。

和室で “もてなす” ことの大切さ

茶人でもあるご主人のご要望で生まれた2つの和室と水屋。設計を担当された来馬氏は「住宅レベルで茶室を作りたい」というご主人の言葉から、伝統や格式を重視した専用茶室ではなく、住まいの中で様々に活用できる“もてなしの空間”である和室を設計。そこには炉があり、茶道を楽しめ、水屋を併設することで機能的にも充実した空間を生み出しています。

戦後の住宅事情の大きな変化の中で長く忘れられてきた“和の空間でのもてなし”。来馬氏はご主人とのディスカッションの中で『茶室=応接間』という考え方に触れ、「大変共感できた」と話します。また、「和室には適度な緊張感があり、庭との連動性にも優れている」とも。リビングだけではなく、和室でコーヒーやお抹茶を点てもてなす。日本人が以前は当たり前にしていたそのスタイルが、今の時代だからこそ新鮮にそして魅力的な生活提案になるのではないでしょうか。

襖紙はモダン

襖紙というと「選択肢が少ない」とか「伝統的な昔ながらのデザインが多い」といった声をお客様から聞くことがよくあります。でもそれは誤解です。襖紙には多種多様な色や風合いがあり、伝統的な文様には海外のトップメーカーが真似するほどグラフィカルで美しいものが揃っているのです。大切なのは選び方と組み合わせではないでしょうか。

O邸では2つの和室とそれらをつなぐ玄関ホールや廊下に和の素材の美しさが引き立つよう色や素材を吟味し、和紙壁紙や襖の色柄を選び組み合わせました。6畳の茶室には深みのある紺色の和紙壁紙を用い、雪白の腰紙とのコントラストがアクセントにもなっています。襖紙には潮合の柄を配し、茶室全体を紺・白・灰の配色でまとめました。8畳の広間はご主人のリクエストで淡い若草色の和紙壁紙を貼り、襖紙は生成り色の無地を合わせています。また、玄関壁面には和の趣のある調湿効果のあるタイルを貼り、デザインの調和を図っています。

和紙とヨーロッパの壁紙を合わせて

和紙は和風デザインの時に使うもの。という思い込みはありませんか?

カラー・コーディネーションを上手にやれば、ヨーロッパの壁紙やファブリックと和紙を合わせてもとても素敵な空間に仕上がります。

O邸では1Fや2Fのプライベートスペースに和の色柄とも相性の良い、ヨーロッパ製の壁紙やカーテン生地を組み合わせ、バランスを取るよう配慮しました。主寝室は洋間ですが奥様のアイデアで柿渋和紙を大きな引戸に裏打ちして貼り、その隣の壁面には和紙と色のトーンを合わせた植物モチーフの紙クロスを選んでいます。

2Fにはオリエンタルなデザインにもよく合う、イギリス産の壁紙やカーテン生地で空間に彩りを加えています。リビングだけではなく、奥様の趣味の部屋であるアトリエには、奥様がご自身で手に入れたイームズデザインのファブリックを使ってオリジナルのシェードを製作。その生地の中で使われている色を幾つかピックアップして、天井カラーや建具のアクセントクロスで色合わせし、楽しく美しい空間に仕上げました。

和デザインの魅力とは

和のデザインというと「侘び寂び」や「伝統」「文化」という装飾詞をつけてしまいがちですが、そうではなく、和の素材や色柄、デザインには時代や国を超えて誰もが心惹かれる美しい新鮮なデザイン要素がたくさんあります。固定概念を取り払い、新鮮な気持ちで“和デザイン”に向き合い、空間に取り入れてみませんか?