2015年1月22から始まったフランス、パリでのインテリア見本市。

Maison & Objet Paris 2015、Paris Déco Off 2015から最新のインテリア・トレンドをご紹介します!

“ライフスタイル・クリエーションの時代”とは?

2000年に入って、エコやグリーン、スローライフが叫ばれ始めた頃から、私達の生活価値観は徐々に変化をはじめ、「ライフスタイルの多様化」などと言われ始めました。そして10年以上の時が過ぎ、この変化を振り返ってみると、同じようなレールを歩く世代別価値観よりも個々の生き方や暮らし方、働き方を模索する人々とそれに応えようとする様々な動きがクローズアップされ、大きな流れを生み出していることに気が付きます。

私は2000年からインテリアやライフスタイルのトレンド分析と予測の仕事もしているのですが、2005年頃からその傾向を“ライフスタイル・クリエーションの時代”と呼び、様々な商品開発や傾向分析に役立てるべく情報発信をしてきました。最初は小さな芽でしかなかったこれらの現象が、今や大きな時代の流れとなり、より身近に感じられるテーマとなって私たちの暮らしに密着しはじめています。

そして2015年。ようやくこの「自分自身の人生を個々の価値観で豊かになるよう選択し、自ら作り上げていく生き方暮らし方=ライフスタイル・クリエーションの時代」とインテリア業界のモノづくりが重なり、インテリアをもっと自由にそして楽しめる時がやってきたのです。では、今年、どんな“ライフスタイル・クリエーションの時代”に相応しいインテリアが登場したのか、最新のインテリア見本市からピックアップしてご紹介しましょう。

Maison & Objet Paris 2015のトレンドテーマは『MAKE』

展示会:Maison & Objet Paris 2015 会期:2015年1月23日〜27日 会場:パリ・ノール見本市会場

Maison & Objet Paris 2015 INSPIRATIONS No.26 「MAKE」
Maison & Objet Paris 2015 INSPIRATIONS No.26 「MAKE」

毎回、この特集記事でもご紹介しているメゾン・エ・オブジェのトレンドブース『INSPIRATIONS』。今年はHall7にてタイトルを『MAKE』とし、3人のトレンドセッターがブースを展開しました。2013より顕著になってきたトレンド傾向に「手作り」や「カスタマイズ」「クラフト」がありますが、ここではそれらをさらに進化させ、未来に向けた新しい『MAKE』が語られています。どんな「MAKE」なものを私たちはインテリアとして楽しむことができるのか、このトレンドブースに集められた物を中心に見ていきましょう。


【MAKE】

今回のテーマについて。「無干渉はすでに過去のもの。誰もが自分のスタイルを求める時代となり、ハンドメイドの魅力はどんどん増しています。そして伝統的なモノづくりのノウハウは、製造されたモノに、価値を与え直します。」2015年1月展のメゾン・エ・オブジェは、メイク(作る)をテーマに「ネイチャー・メイド」、「ヒューマン・メイド」そして「テクノ・メイド」の3つのトレンド空間を発表しました。」(Maison&ObjetParis2015プレスリリースより)


【NATURE MADE by François Bernard(Croisements)】

フランソワ・ベルナールによる「ネイチャー・メイド」。

キーワードは芸術科学、研究者、経験、促進剤、突然変異、魔法、可能性。

Cruella by Origine Ateliers
Cruella by Origine Ateliers
Mycelium Project 1.0 – Myceliumchair by Eric Klarenbeek
Mycelium Project 1.0 – Myceliumchair by Eric Klarenbeek
Dino Pet by biopop
Dino Pet by biopop
Phytophiler by Studio Dossofiorito
Phytophiler by Studio Dossofiorito

ここでは、自然現象を観察することによって、科学者やクリエーターたちは共通した実験的領域へ導かれることを複数の作品を通して見せていました。彼らは、生物が成長するときに辿る魔法のような変化や突然変異を再現するかのようにモノづくりにアプローチし、新しい発見や時間経過を体験する試みを提示しました。

そのうちの一つをここではご紹介しましょう。フランソワからの招聘を受け参加した日本のamana(株式会社アマナ)。彼らが得意とする「ビジュアルコミュニケーション」のスキルを用いた作品「THE RETROSCOPE PROJECT」。ARという拡張現実の機能を用いたアプリケーション「ARART」によって、静止画である写真に新たなメッセージやイメージを付加し、無声映画を見るような楽しみを体験させてくれる試みです。屋久杉などの自然を写したパネルに、会場で手渡されるスマートフォンをかざすと数秒後にその画面の中に新たな映像や文字が現れ変化します。それはまるでサイレントムービーを自分一人で密かに覗き見しているかのような気分。自然と人間の手による変化で映像に意味や驚きが生まれ、感情が生まれる。遠い未来のことのように思っていた仮想現実という技術がもっと気軽にもっと身近に楽しめる、そんなブースになっていました。

こういった技術があれば、自分の部屋を気分やシチュエーションに合わせ自由に変化させることも簡単です。自分自身の気分と環境をリンクさせオリジナルの映像演出でインテリアを変化させることもきっとすぐ可能になるのです。

THE RETROSCOPE PROJECT by amana
THE RETROSCOPE PROJECT by amana
amanaの星本和容氏
amanaの星本和容氏

【HUMAN MADE by Elizabeth Leriche】

エリザベス・ルリッシュによる「ヒューマン・メイド」。

キーワードは、素材、変化、特異性、テクニック、手腕 通過する 職人 、技能の新しい形。

by Tortus Copenhagen
by Tortus Copenhagen
IntroversoVase 1 & 2 by Paolo Ulian
IntroversoVase 1 & 2 by Paolo Ulian
Tailormade Vase by Noam Dover & Michal Cederbaum
Tailormade Vase by Noam Dover & Michal Cederbaum
Metamorphosis by ECAL / Sereina Lareida
Metamorphosis by ECAL / Sereina Lareida
by Simon Hasan
by Simon Hasan
Stitch by Akiko Kuwahata
Stitch by Akiko Kuwahata

新しい贅沢は、人の手、感触、それらの変化から生まれます。一つの素材が完成されたオブジェとなるまでの間には、壮大で素晴らしく、そして多様なノウハウが詰まっています。そのなかで大きな役割を果たすのが“手”です。精神を表現する道具となる手には知性が宿り、蓄えられた知識は世代を経るごとに形を変え、豊かになっていく。このブースでは人間の手から生まれ、受け継がれてきた技法からなる新たな豊かさについて考察しています。

ろくろを回して作り出される美しい陶器。羊毛から紡ぎ出される温かでプリミティブなラグ。カットされ一針一針ステッチされた革製品やシンプルで美しい木の家具。そしてそれを作る時に使う多種多様な美しく機能的な道具類。人の手を介して生み出された“心が豊かになる物”を使う喜びと愛でる喜びをテクノロジーが発達した今だからこそ、大切にしたい。そしてそれらは次世代の作家やクリエーター、職人たちに受け継がれているのだということを実感できる展示でした。


【TECHNO MADE by Vincent Grégoire ( NellyRodi )】
ヴァンサン・グレゴワール(ネリーロディ社)による「テクノ・メイド」。
キーワードは、エンジニア、革新、パートナーオブジェクト、情け深いこと、接続されること、デジタル。

デジタル技術の革新により、機械は私たちの暮らしに役立つパートナーとなりました。それらは私たちの暮らしの中で個々のニーズに応えてくれ、製造ツールを一般家庭に普及させ、私たちの近く、もしくは遠くの環境との相互作用をより良いものにしてくれるでしょう。そして私たちの世界をさらに楽しく、快適に、そして自立したものにしてくれるはず。そんなメッセージが読み取れます。

ここでは私たちにとって既に身近となっているデジタル機器が展示されています。改めてそれらを見ると、それは単に便利な道具ではないことに気が付きます。これらのマシンは、私たちにとって生活をより豊か(物質的な豊かさではなく経験や感じる心)にしてくれる人に寄り添うデザインであり、大切なツールなのです。例えば人とのコミュニケーションを助け、遠い異国にいる友人との接点を増やしてくれるスマートフォン。どんな場所でも最高の音質を楽しむことが出来るヘッドフォン。

それだけではありません。「自分だけの」「自分スタイルで」というようにオリジナリティを求める消費者が多くなるライフスタイル・クリエーション時代。そこ登場した3Dプリンターはまさに夢のマシンです。この技術の登場でオリジナルの一点物を作ることが容易になり、自分だけの家具やオブジェが手に入り易くなるのです。プロダクトが大量生産を前提としていた時代は姿を変え、カスタマイズ出来るプロダクト・デザインへと移行し始めているのです。


自分スタイルを作る。

Maison & Objetの今回の「MAKE」からも見えてきたテクノロジーとヒューマン・スキルが絡み合い生まれる21世紀のインテリアやプロダクト。そこには私たち消費者が自ら選択し、自在に組み合わせることが可能だという世界が広がっています。ファッションでは既に様々なブランドを自由に組み合わせ、MIXスタイルで「自分スタイル」を楽しむ文化が生まれています。2015年はインテリアでも「自分スタイル」を楽しめる時代に入った記念すべき年になるでしょう。昨年ご紹介したMaison & Objetのレポートでも触れられていますが、インクジェットによるデジタル・プリントの爆発的な普及で、インテリアファブリックスや壁紙の世界は大きく変わり始めています。メーカーが在庫しているものから選ぶしかなかった時代が嘘のように、これからは自由に色や柄をカスタマイズし、欲しい量だけ注文できるシステムが台頭してきます。欧米では既にそのようなサービスを展開しているサイトが数多くあります。海や国境に縛られることなく、様々なインテリア・エレメントが自由に手に入るなら、きっとインテリアはもっと楽しく身近なものになってくるでしょう。