『墨おどり 箔うたう』  襖絵師 島田由子の世界

個展会場  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved.
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2022年2月22日(火)から3月12日(土)まで、フィジギャラリー新宿(東京)で開催された企画展示『墨おどり 箔うたう』を見た。


美しい。そして作品としての力強さが心を奪う。
襖絵師として、長年襖のデザインに関わってきた島田由子氏とは、私がデザインを手がけた実物件での襖絵の創作や商品開発の仕事でご一緒する機会が何度かあった。
その作風や職人(あえてここではこの表現を)としての仕事ぶりはよく存じ上げている。
今回の展示作品を見て、改めて作家としての魅力に触れることができた。
これまでも何度か島田氏の個展に足を運んだが、今回の作品群はこれまでの作品とは一線を画すものだと思う。
彼女のチャレンジ精神と、創作エネルギーから生み出された新基軸の作品となっている。
特に着目したのは、墨と箔で花を描いたシリーズ。そして壁紙に施したデジタルプリントとの融合作品だ。

空間に映えるアートパネルに  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved.
空間に映えるアートパネルに  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved.

長く襖紙に関わってきた島田氏は、和室、そして空間デザインとアート(絵)の関係性についてについてよく知っている稀有な作家である。しかし、長年、襖という縁(ふち)のある決められたサイズの中で描いてきたためか、それが縛りとなって画面の広がりを無意識のうちに制限していたのかもしれない。今回、そのリミッターが外され、作品世界にパネルサイズを意識させない広がりを生んだ。そうしてインテリアパネルとしての完成度を上げ、作品と空間が響き合い、魅力を増す仕上がりとなっている。

「季の華/うめ」パネル、墨、水干絵具、雲母、箔、膠、越前鳥の子襖紙  1754×454mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
「季の華/うめ」パネル、墨、水干絵具、雲母、箔、膠、越前鳥の子襖紙  1754×454mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
左より「季の華 さくら」「季の華 はす」「季の華 しろつめぐさ」「季の華 もくれん」 パネル、 墨、水干絵具、雲母、箔、膠、越前鳥の子襖紙  各350x700mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
左より「季の華 さくら」「季の華 はす」「季の華 しろつめぐさ」「季の華 もくれん」 パネル、 墨、水干絵具、雲母、箔、膠、越前鳥の子襖紙  各350x700mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 

もう一つの新たなるシリーズ。リンテックサインシステム株式会社のデジタルプリント技術との融合作品だ。
島田氏の原画をフリース壁紙にデジタルプリントした後、更に加飾した作品である。複数の工程を経て仕上がったそれは、重層的な色の重なりとともに不思議な陰影を生み、平面であるパネルに新たな魅力を吹き込んでいる。
今回、このシリーズ以外の作品のいくつかにも紙に筋が入っていることに気がついた。その手順や手法については作家のオリジナルなので詳細は控えるが、それが作品に不思議な魅力を与えていたことは間違いない。
島田氏のチャレンジ精神が様々な他業種との共同作業を経て、新たな技法を生み出すことに繋がっている。

作品協力:リンテックサインシステム株式会社 http://www.sign-japan.com

「好日Dシリーズ」  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
「好日Dシリーズ」  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
「好日D -  no.1」 パネル、バロア、油性インク、墨、赤金、焼箔  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved.
「好日D - no.1」 パネル、バロア、油性インク、墨、赤金、焼箔  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved.


島田氏のこれまでの代表的な作品である「墨」シリーズでも新作が見られた。
こちらは越前和紙の襖紙に大きな筆で流麗に線を引いたシリーズだが、襖紙の特性を知り尽くしている彼女だからこその効果「滲み」が何とも言えない味わいを醸し出している。(おそらく裏を使用したことから、より効果が出ているのではないかと彼女と話した)
その勢いのある筆致と共に和洋どちらのインテリア空間にも映える作品となっている。

「墨 no.5」  パネル、墨、箔、越前鳥の子襖紙 530×730mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
「墨 no.5」  パネル、墨、箔、越前鳥の子襖紙 530×730mm  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
斜めから見ると襖紙の繊維が見える。墨と繊維の反応が複雑な表情を生んでいることがわかる。 Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
斜めから見ると襖紙の繊維が見える。墨と繊維の反応が複雑な表情を生んでいることがわかる。 Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 


会場には、見覚えのある小品も並ぶ。色や柄が様々な筆致で描かれた楽しい作品だ。
これらは以前、ご一緒したあるプロジェクトで島田氏が描き起こした図案の一部だ。どれも魅力的な図案だったが、残念ながら製品化されなかったものが幾つかあった。埋もれさせておくには惜しいと思っていたが、今回パネル化されて改めて作品に。
柔らかな色合いが展示会場に小さな春を運んできてくれたように感じた。

「種シリーズ」 パネル、墨、アクリル絵の具、越前鳥の子襖紙 190×150mm  写真提供:フジギャラリー新宿
「種シリーズ」 パネル、墨、アクリル絵の具、越前鳥の子襖紙 190×150mm  写真提供:フジギャラリー新宿
「種シリーズ」 パネル、墨、アクリル絵の具、越前鳥の子襖紙 190×150mm  写真提供:フジギャラリー新宿
「種シリーズ」 パネル、墨、アクリル絵の具、越前鳥の子襖紙 190×150mm  写真提供:フジギャラリー新宿


島田氏の今回の作品はインテリア空間に映えるアートとして完成されたものである。
しかしその源流は襖にあることをぜひ多くの人に知ってほしい。
襖紙とその加飾には多くの技法と多様な紋様、柄があり、紙そのものにも魅力が詰まっている。
襖紙は決して古い素材ではなく、今の私たちの生活様式でも魅力を発揮する内装材料なのだ。
そこには、島田氏のような素晴らしい技術と才能を持った人々が関わっていることを。

会場にて  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 
会場にて  Copyright © 2022 c//space Eriko Hosoi. All Rights Reserved. 

島田由子 氏 プロフィール

襖絵師
1961年 兵庫県生まれ。1983年 金沢美術工芸大学の日本画専攻を卒業。
現在は、関東近郊で襖絵師として、多くの手描き襖絵・屏風絵を手掛け、その他に扇子・円絵・掛絵を制作。


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展覧会名 墨おどり 箔うたう
アーティスト名 襖絵師 島田由子
会期 2022 年2 月22 日(火) - 3 月12 日(土)
会場 フジギャラリー新宿
主催 フジギャラリー新宿

お問合せ フジギャラリー新宿
担当:板垣
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-6-2 ヒルトン東京地下1 階 観光案内所 併設
Tel・Fax:03-6279-0049  Mail:info@fuji-gs.jp https://www.fuji-gs.jp/