変化する病院の内装デザイン

従来の病院デザインでは、「清潔=白」という考え方から壁面の色は「白」が主流でした。この傾向はもちろん現在もあります。しかし、近年、治療が始まる前の患者さん達の不安な気持ちを和らげるために、待合室や病室に色柄のついた内装材を使用することが珍しくなくなってきました。以前より、大学病院などでは小児科病棟でパステルカラーを使う事は珍しくありませんでしたが、街中にある様々なクリニックで、デザイン性に富んだ内装材を使うクリニックが急増しています。特に、産婦人科や歯科などにその傾向が多く見られます。

その背景には、色が持つ心理的作用の認知度が高まった事、患者さんの心のケアとして何が出来るかをインテリアからも考えようとする動き、そして経営的観点からの戦略=「競争激化からインテリアで差別化を図る」にあるようです。

治療に対する不安を解消する変化に富んだ待合室

ここ数年、歯科クリニックや内科クリニックのインテリア・デザインの依頼が増加しています。この背景には、病院の内装にも「デザイン性」が重要であるという認識が開業されるお医者様の中に浸透してきているからではないでしょうか。事実、新築された最近の大学病院などを見ると、大きな吹き抜け空間や自然光を最大限に取り入れるための大開口部など、開放的で明るい建築が急増しています。つまり、「閉鎖的」「暗い」などのマイナスイメージを患者さんに与えない工夫がされているのです。同じように、街中の小さなクリニックでも同じように患者さんに安心感を与えるデザインが求められています。ただし、商業ビルなどのテナントとして入るクリニックの場合、新築の大規模病院と違い、建築的制約は多く採光や間取りで開放感や心地よさを演出する事は出来ません。そこで重要になってくるのが「色」そして「素材感」になります。


このT歯科では、北欧をイメージソースとしたパステルカラーを基調にアクセントカラーとして落ち着きのあるダークブラウンを用いて待合室を構成。30代から40代のニューファミリーが親子で通えるクリニックを目指し、空間構成がされています。入口正面には心を落ち着けてくれるやさしいイエローを使用。受付カウンターには凹凸のあるモザイクタイルを用いて間接照明によって生まれる柔らかな光と影を演出しています。一方、待合室の一角に設けられた洗口コーナー(洗面所)には空間を引き締める効果のあるダークブラウンの壁紙に合わせてベージュとブルーの変形タイルをデザインアクセントとして使用しています。このようにあえて、さまざまなデザイン要素をコーナー毎に盛り込む事によって、画一的で殺風景な印象を患者さんに与えないように工夫しています。

やさしい色使いで心落ち着く診察室を

待合室と同様、診察室や実際に治療を行う場所も色を使うケースが増えてきています。特に治療中の不安感が高い歯科クリニックでは、患者さんの心を落ち着かせる照明の工夫やパステルカラーを用いた壁面構成などで、患者さんの心の負担を軽くする工夫が求められています。


このT歯科では待合室と同じ「北欧」というコンセプトから、待合室より更にやわらかな色調に押さえたニュートラルカラーを使用。壁面やキャビネットの面材、診察台の張り地に用いています。また、隣の診察室との境のパネルには明るい白木模様の面材を使用し、自然の温もりもプラスしています。