外国人観光客の増加とともに建設ラッシュが続くホテル業界。しかし、アメリカなどと比べまだまだ五つ星クラス以上のラグジュアリーホテルが少ないと言われる日本。中でも日本の観光地として不動の人気を誇る京都では、富裕層クラスの受け皿となるホテルの建設が急務とされ、ここ数年、外資系ラグジュアリーホテルの開業、計画が次々と発表されています。そして昨年開業し話題となっているホテルが “フォーシーズンズホテル京都”。2016年10月15日、京都東山区にオープンしたこのホテルの特徴とは。インテリア・デザインの傾向についてご紹介しましょう。
竹のアプローチから始まるエントランス
三十三間堂から徒歩数分の好立地でありながら、ホテル周辺は静かで落ち着いた雰囲気。ホテルの建物を横に見ながら塀沿いを進むとホテル敷地の入口があり、長くまっすぐな緑のアプローチが目の前に現れます。ホテルのメインエントランスはその若竹の小道の先にあり、車が行き交う公道から離れた場所に設置。外界と切り離され、特別な場所に来たという雰囲気を演出しています。まだ竹は若く、高さや幹の太さはあまりありませんが、これが数年もすれば立派な竹林を思わせる道になるであろうことは容易に想像できます。
近づいて初めてわかるレセプションの壁面タイル
シンプルなレセプション。その向かいには白木の柱で囲われた小ぶりのウェイティングスペース。180室あるホテルのロビーとしては少々こじんまりしていると思われるかもしれませんが、実はそのすぐ先にある吹き抜けを見下ろすと、高さ9mの窓を有する開放感あるメインダイニング「ブラッスリー」の150席(テラス席含む)が広がります。庭園との高低差で空間にダイナミックな広がりを持たせ、進むほどに発見がある作りが特徴です。そしてこのホテルでは様々なテクスチャーのタイルや石材を壁面に使用しています。レセプリョンの壁や天井は一見、無地の黒に見えますが、近づいて見ると模様の違うタイルの組み合わせであることがわかります。
歴史ある庭園「積翠園」とミックステイストで遊び心のあるレストラン
このホテルの敷地面積は約2万平米。そしてその中心には平重盛邸跡とされる「積翠園(しゃくすいえん)」があります。池を回り込む小道も作られ、奥には茶室もあり、池の反対側からも庭を眺められるよう設計されています。その庭を大きな窓越しに、天気の良い日はテラス席からも眺められるメインダイニング「ブラッセリー」。メインエントランスから階段で降りることが出来るようになっており、ソファ席とテーブル席、半個室風席などいくつかのエリアで構成され、開放的な空間になっています。ソファ席横の吹き抜けには高さを強調する縦格子があり、その下には炭の断面で装飾されたアクセントウォールが続きます。大胆に丸太をスライスし壁面に貼り付けた装飾や、ビンテージ風家具やボードゲームをディスプレイして遊び心のあるミックステイストに。朝食時は中心にあるバーカウンター周辺がビュッフェコーナーに変わります。
サブ エントランス
このホテルのもう一つの特徴は、春や秋のハイシーズンでも泊まれるよう分譲タイプの客室があること。その客数は全体の約3割を占め、富裕層ニーズに応えています。その分譲タイプの宿泊客などが使用するサブエントランスが客室エリアの中間にあります。ソファ席の床には麻の葉などの日本の伝統文様を複数パッチワークしたようにデザインされたオリジナルカーペットが敷かれ、エルメス製の人力車が飾られるなどのオリジナリティある和のデザインの演出が見られます。
和の文様と美しい差し色が魅力の客室
客室は和モダンのスタイル。木目の美しい壁面と組子を取り入れた造作棚。高さのあるレザーのベッドヘッドボードと水彩画タッチの和紙風壁紙の組み合わせ。和紙のシェードの照明など、和を感じる素材を適度にポイント使いし、バランスよく構成しています。標準的な客室でも食事が取れる大きさのテーブルやソファを配し、49平米以上の広さを確保。ゆったりと過ごせる空間に。床には板張り、タイル、カーペットがシーンごとに貼り分けられ、色鮮やかな和の文様や絵画のようなグラデージョンが美しいオリジナルカーペットが使用され印象的。クッションや椅子と同色にしてカラーコーディネートする工夫も見られます。バスルームの動線もよく考えられており、シャワーメインの外国人客も、浴槽と洗い場を分けたい日本人客もガラス戸の開閉で2つの使い方が選べるよう工夫されています。
もてなしの気持ちと和のコーディネート
人気の旅館やホテルでは茶器や茶菓子のセレクションにも一工夫ある場合が多いのですが、このホテルでも京都という立地を意識した美味しい日本茶と茶菓子が準備されています。また、文様や色、素材に和の物を使ってコーディネートし、見る人の目に自然に日本の伝統と美が映るようプランニングされています。和のデザインの美しさを随所に取り込むことで、もてなしの心が伝わってくるホテルデザインになっています。
本コラムではインテリアの内装材にまつわる様々な情報を発信してまいります。国内の新しい製品情報はもとより、エンドユーザーの消費行動に関する変化や海外トレンドから得られるデザインのヒント、話題の建築などにも着目しご紹介してまいります。