“Home maker”という言葉をご存じですか?自ら手掛けた自宅の装飾やインテリアを積極的にInstagramなどのSNSで発信する人たちの事で、彼らはインテリアを仕事とするプロのデザイナーではなくあくまでも一般人。このような人々が世界的に増えているのです。日常生活にエスプリの効いたオブジェを並べ世界中に発信して喜ぶ。そんな時代だからこそ重要となる新しいインテリアの切り口が2018年1月開催の展示会 Maison & Objet Parisで発表されました。
SHOW ROOM ― 消費者がプロダクトを評価し演出する時代に
展示会:Maison & Objet Paris 2018
会期:2018 年1月19日~23日
会場:パリ・ノール見本市会場
INSPIRATIONS テーマ「SHOW ROOM」
Scenography by Vincent Grégoire
今回のMaison & Objet Parisのトレンドブース「INSPIRATIONS」のタイトルは“SHOW ROOM”。当初、私はいわゆる“インスタ映え”する室内装飾品を集めた空間提案のことと考えました。しかし、今回のブースの企画者であるヴァンサン・グレゴワールのインタビューを読んでそう単純なテーマではないことを知りました。今回のテーマには人々の意識の変化と、これからの店舗、小売り業界へのメッセージが込められていたのです。
日本でも連日テレビ番組の中でインスタ映えという言葉が登場し、写真写りを第一に考えた奇抜な壁面アートや飲食店の情報が飛び交っています。Instagramの登場によって誰も知らなかった絶景の秘境が知られるようになり、観光地化するなどその影響は計り知れません。これまでは外のインスタ映え空間を求めて情報が飛び交っていましたが、それに満足できない新たな人々は自らファッションやオブジェ、インテリアをチョイスし、自宅を開放して写真を撮り、各プロダクトを評価し演出して世界に発信しています。その姿はまるでプロのデザイナーやアートディレクターのようです。
デジタル技術の発達は、今や私たちの生活や価値観までも変えようとしています。デジタル革命が進む今、消費者はこれまでのようにファッションやインテリアのアイテムを選ぶ時、ブランドやメーカー名だけで商品を選ぶことはなくなりました。SNSやインターネットを通じて様々な商品情報を手に入れ、比較、検討し自ら評価することで物を選び購入するようになったのです。そしてそれを自ら発信し共有して喜びを得る。そんな人たちが世界中に増えていることを今回のブースは示しています。
ドラマチックにディスプレイを楽しむ
では実際に自宅の空間やインテリアをどのように演出すればよいのか。SNSで発信するには何が大切になってくるのでしょうか。展示では壁面に眼にも鮮やかなビビット・カラーを使用しスポットライトを当てるなど、ドラマチックな空間演出をしています。また、ありふれた日用品や趣味で集めた雑貨なども、どのようなケースに入れ並べるかによって、“インスタ映え”仕様に変換出来ることを示しています。ここで重要なのがそれらを入れるケースや陳列棚。見せて飾るが基本の為、美しいガラスケースや素材や色が特徴的なトレーがこれまで以上に重要なアイテムになるでしょう。また、洋服もクローゼットの中にしまうのではなく、まるで店舗の様に見せる形でディスプレイして収納するスタイルが注目されます。椅子やミラー、食器など身近な日用品にも驚く様な仕掛けや装飾が施されるでしょう。今回の展示では特に「顔」「仮面」「人体」がモチーフとして多用されていました。これらは使う人、見る人を驚きと発見の喜びに誘うことが出来、それがこのテーマでは大切なポイントなのです。
個性や好き嫌いを明確にした品揃えが求められる小売業
デジタルテクノロジーの進化によって人はネット上での購入にますます傾斜していきます。ではこれからの小売業では何が出来るのか。今回のトレンドブースではその小売業の未来についてもディスプレイで語りかけていました。SNSで各自が自分の好みを明確にするのと同じ様に、これからの小売店ではマスターゲットに向けた凡庸な品揃えではなく、ニッチなニーズにも応えるスモールターゲットに向けたテイストを明確にした品揃えが求められること。また、店舗は単に売り物をストックする場所ではなく、VRなどを活用して体験型消費に応える新しいディスプレイ提案が重要になることを示していました。つまりは、店舗は実際に足を運びたくなる、より魅力的な場所、空間への転換が求められているとヴァンサン・グレゴワールはメッセージを発しているのです。
注目デザイン/ラスティック・ラグジュアリー/マーブル/ブラック
Maison & Objetと同じ時期にパリ市内の会場で行われるファブリックスや壁紙の展示会「Deco Off Paris」からも最新のデザイン傾向をご紹介します。
昨年のアフリカンに続き、ナチュラル&エスニックなスタイルは継続します。2018〜19年はそこにさらなる要素として“ラグジュアリー”が加わり、今シーズン、私はそれを“ラスティック・ラグジュアリー”と名付けました。貝殻や古いオーク材など天然素材のリサイクル活用や加工し過ぎない植物の枝や樹皮を活かしたファブリックスなどラスティックな素材が登場。それらをデザインの力で品格があり高級感のあるラグジュアリーなテイストに仕上げています。
また、柄としては今回大理石やイタリアのマーブル紙を思わせるような柄に注目です。家具や壁紙に数多く使用され、本物の大理石もあれば精巧なフェイク素材も。
注目カラーはいくつかあるのですが、昨年予測した淡いピンクがやはり多数家具などに登場しました。新しい切り口としては“ブラッキー”に注目しています。特に黒を引き立て役としてではなくメインのアクセントカラーに使う手法がディスプレイの中でいくつか見られました。黒を主役にするインテリアが今後大きく出てくる可能性があるように思います。
新しいデザイン傾向をいち早くインテリアに取り入れ、新しいトレンドを楽しみましょう。
本コラムではインテリアの内装材にまつわる様々な情報を発信してまいります。国内の新しい製品情報はもとより、エンドユーザーの消費行動に関する変化や海外トレンドから得られるデザインのヒント、話題の建築などにも着目しご紹介してまいります。